herb& aroma mail magazine

ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.56

クロモジ

 「クロモジ」と聞いて何が思い浮かびますか? 「黒文字」、和菓子をいただく時などに添えられる高級楊枝を「クロモジ」と呼び、原料になる木の名前がそのまま使われています。クロモジとは楊枝のことと思っている方も少なくないようです。

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 クロモジはシナモンや月桂樹、芳樟などかぐわしい木々と同様のクスノキ科に属し、学名はLindera umbellata、落葉性低木です。名の由来は、樹皮に点々とついた斑点を文字に見立て「黒文字」とついたというのが一般的な説です。九州の山地、本州から北海道南西部まで広く分布し、代表的な品種が2つあります。北海道南西部から東北地方、日本海側に自生するのが「オオバクロモジ」、関東地方以西、太平洋側が「クロモジ」とされます。

▼ クロモジ
▼ クロモジの葉と実
▼ クロモジの花

 私の最初のクロモジ体験は、新潟県との県境に近い山形県の小国町の森林セラピーロードを歩いた際、森林ガイドの人が「山歩きに疲れた時、この葉っぱの香りを嗅ぐとすっきりします」と摘んで下さり、それがとても爽やかな香りでした。精油としてのクロモジは知っていましたが、生の木を見るのは初めてで、それがアロマテラピーの世界とは別に、山歩きの人たちにも役立てられていることがとても新鮮でした。感嘆する私たちに、野生の木を折ってひと抱えお土産に下さり、感激して持ち帰ったものの、その枝はものすごく堅く、水蒸気蒸留のために刻む作業が本当に大変だったことを思い出します。

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 クロモジの香りの主要成分はリナロールで、約50%です。リナロールは鎮静効果が高く、芳香性があり、人気の高い香りです。リナロールを多く含む精油の代表がローズウッドですが、ブラジル産のローズウッド精油が森林保護のために入手困難な現在、それに代わる精油として人気があります。他にリナロールが多いのは、コリアンダー、ラベンダー、クラリセージなどです。

 クロモジは生薬としても用いられ、薬用養命酒にも使われています。日本では伝統的にその効能が知られ、且つ身近な植物でもあるため、全国でさまざまな活用がなされてきました。お正月飾りの「もち花」に使う枝は柳が一般的ですが、一部の地域ではクロモジの枝が使われました。また細い枝を丁寧に加工する「黒文字垣」は高級竹垣として扱われています。京都の桂離宮が有名です。また、和歌山の高野山には「参詣人を襲っては食べていた大毒蛇を竹の箒で封じ込めた」という伝説があり、竹箒を使うと封印が解けるとして、高野山では竹を植えることが禁じられ、屋外ではクロモジで作った箒が使われてきたそうです。

 最近はクロモジのキャンディーやクラフトジン(酒)も話題です。また各地では地元のクロモジを活かし、町おこし的なクロモジ製品も多数開発されています。香りにはリモネンやピネンなどの成分も含まれるので、風邪の季節にも役立ちそうです。これからの季節にはピッタリですね。

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日本園芸協会 指導部 佐々木薫



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佐々木 薫(ささきかおる)
プロフィール:
公益社団法人日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。 NHKをはじめテレビ、ラジオの出演多数。 日本園芸協会の通信教育講座「ハーブコーディネーター養成講座」テキスト執筆者。

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日本園芸協会 学習サービス課 aroma@gardening.or.jp




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